永住申請では、申請人本人の年収だけでなく、家族全体の生活状況が確認されます。
そのため、配偶者、子ども、同居する親族、本国にいる親族など、申請人が扶養している家族が多い場合には、収入と生活費のバランスが重要になります。
「年収がいくらあれば永住申請できますか」
「子どもが3人いますが、永住申請で不利になりますか」
「本国の両親へ仕送りをしています」
「配偶者が働いていない場合でも申請できますか」
「家族全員で永住申請すると、必要な収入は増えますか」
このような相談を受けることがあります。
結論として、扶養家族が多いことだけを理由に、永住申請が不許可になるわけではありません。
しかし、永住許可では、日常生活において公共の負担にならず、将来にわたって安定した生活が見込まれることが確認されます。
そのため、家族の人数に対して世帯収入が十分か、生活費をどのように負担しているか、税金や社会保険を適正に履行しているかが重要になります。
この記事では、扶養家族が多い場合の永住申請で確認されるポイント、収入の見方、海外扶養、配偶者の収入、家族全員で申請する場合の注意点を解説します。
1.永住申請では「独立の生計」が確認される
永住許可の法律上の要件の一つに、「独立の生計を営むに足りる資産又は技能を有すること」があります。
出入国在留管理庁の永住許可ガイドラインでは、この要件について、日常生活において公共の負担にならず、資産又は技能等から見て、将来において安定した生活が見込まれることと説明されています。
(出典:永住許可に関するガイドライン、出入国在留管理庁ウェブサイトより)
重要なのは、本人一人の収入だけで形式的に判断されるわけではないという点です。
同居する配偶者に収入がある場合や、世帯として安定した生活ができている場合には、家族全体の状況が考慮されます。
反対に、本人の年収が一定額あっても、扶養家族が多く、住居費や教育費、海外送金などの負担が大きい場合には、生活の安定性について詳しい説明が必要になることがあります。
2.一律の年収基準は公表されていない
永住申請について、「年収300万円あればよい」「扶養家族1人につき何十万円必要」といった説明を見かけることがあります。
しかし、出入国在留管理庁は、全国一律の最低年収額や、扶養家族1人当たりの加算額を公表していません。
実際の審査では、次のような事情が総合的に確認されます。
・世帯全体の収入
・扶養家族の人数
・配偶者の収入
・住居費
・子どもの教育費
・海外への仕送り
・預貯金や資産
・雇用の安定性
・今後の収入見込み
・公的扶助の利用状況
・税金、年金、健康保険の履行状況
したがって、単純に年収額だけを見て、「申請できる」「できない」と判断することはできません。
3.税証明書から扶養人数も確認される
永住申請では、住民税の課税証明書や納税証明書を提出します。
課税証明書には、収入や所得だけでなく、扶養控除の対象となっている家族の人数などが記載されることがあります。
そのため、申請書に書かれた家族構成と、税務上の扶養状況が一致しているかも確認されます。
たとえば、次のような点です。
・配偶者を扶養に入れているか
・子どもを扶養控除等の対象としているか
・海外にいる親族を扶養に入れているか
・実際の仕送り状況と税務上の申告が合っているか
・夫婦のどちらが子どもを扶養しているか
税務上の扶養関係と実際の生活状況が異なる場合は、その理由を整理する必要があります。
4.配偶者の収入も世帯収入として考えられる
申請人本人の収入だけでは生活費が十分でないように見える場合でも、配偶者に継続的な収入があれば、世帯全体として生活が安定していると説明できることがあります。
配偶者の収入を考慮してもらう場合には、次のような資料を準備します。
・配偶者の在職証明書
・課税証明書
・納税証明書
・源泉徴収票
・給与明細書
・雇用契約書
・預貯金資料
ただし、配偶者の収入が一時的なもの、短期間のアルバイト収入、雇用の継続性が不明なものの場合には、将来の安定性を慎重に見られる可能性があります。
夫婦の収入を合わせて説明する場合は、両者の勤務状況や今後の就労予定も整理することが大切です。
5.配偶者が働いていない場合
配偶者が専業主婦・専業主夫である場合や、育児、介護、病気などの理由で働いていない場合でも、それだけで永住申請ができないわけではありません。
重要なのは、申請人の収入で家族全体の生活を安定して維持できているかという点です。
次のような事情を確認します。
・申請人の収入
・家賃又は住宅ローン
・子どもの人数
・教育費
・預貯金
・配偶者が働いていない理由
・今後の就労予定
・親族からの援助の有無
育児休業中、出産直後、家族介護中など、一時的な事情で配偶者が働いていない場合は、その状況と今後の見通しを説明することがあります。
6.海外にいる親族を扶養している場合
本国の父母、兄弟姉妹、子どもなどへ継続的に送金している場合、その送金額も家計負担として考える必要があります。
また、海外居住親族を税務上の扶養親族として申告している場合は、親族関係や送金の事実を税務上適正に証明できることが必要です。
永住申請では、次の点を整理します。
・誰を扶養しているか
・親族関係
・送金額
・送金頻度
・送金方法
・本人の生活費への影響
・税務上の扶養申告との整合性
海外扶養親族が多い場合、課税証明書上の所得が一定額あっても、実際に日本で生活する世帯に残る金額が少ない可能性があります。
そのため、永住申請では、単に「扶養している」と説明するのではなく、家族全体の収支を確認することが重要です。
7.家族全員で永住申請する場合
本人、配偶者、子どもが同時に永住申請することがあります。
この場合、家族全員が一つの申請になるのではなく、原則として一人ずつ永住許可申請を行います。
それぞれについて申請書、写真、在留カード等の資料が必要になります。
ただし、世帯収入、住居、扶養関係、身元保証人などは、家族共通の事情として説明できます。
家族全員で申請する場合に確認すべき点は、次のとおりです。
・家族全員の現在の在留資格
・家族それぞれの在留期間
・主たる生計維持者
・家族全体の収入
・税金、年金、健康保険
・子どもの就学状況
・配偶者の就労状況
・家族それぞれが永住の特例に該当するか
特に、高度人材ポイントによる在留期間短縮は、原則として高度人材本人を対象とするもので、配偶者や扶養を受ける子に当然に同じ短縮措置が適用されるわけではありません。
(出典:高度人材ポイント制Q&A、出入国在留管理庁ウェブサイトより)
家族全員が同時に申請できるかは、各人の在留歴や身分関係を個別に確認する必要があります。
8.家族の一部だけ先に永住を取得する場合
主たる生計維持者だけが先に永住申請し、配偶者や子どもは後から申請する方法もあります。
たとえば、本人は原則10年在留の要件を満たしているが、配偶者や子どもは在留期間が短い場合です。
本人が永住者になった後、配偶者や子どもが「永住者の配偶者等」などへの変更や、永住許可の特例を検討できる場合があります。
ただし、家族の在留資格変更や永住申請が自動的に認められるわけではありません。
家族ごとに、在留歴、婚姻関係、親子関係、生活実態、公的義務を確認する必要があります。
9.子どもが多い場合
子どもが多い場合は、教育費や生活費を含め、家計全体が安定しているかが確認されます。
確認される事情としては、次のようなものがあります。
・子どもの人数と年齢
・学校、保育園等への在籍
・教育費
・児童手当等の受給
・住居の状況
・配偶者の就労
・世帯収入
・預貯金
・今後の進学予定
児童手当など、通常の社会保障制度を利用していることだけで、直ちに「公共の負担」と評価されるわけではありません。
一方、生活保護等により生活を維持している場合には、独立生計要件との関係で慎重な検討が必要です。
10.親族と同居している場合
申請人の収入が少なくても、親族と同居し、家族全体で生計を維持していることがあります。
この場合には、誰が家賃や生活費を負担しているのか、家計がどのように成り立っているのかを整理します。
次の資料が考えられます。
・同居親族の課税証明書
・納税証明書
・在職証明書
・住民票
・賃貸借契約書
・住宅ローン資料
・家計負担に関する説明書
単に「親族が助けてくれています」と説明するだけでなく、継続的な生活基盤として説明できるかが重要です。
11.預貯金があれば収入不足を補えるのか
預貯金や資産は、生活の安定性を説明する材料になります。
ただし、預貯金があるから、継続的な収入がなくても必ず永住許可されるというものではありません。
永住許可では、現在だけでなく、将来にわたって安定した生活が見込まれるかが確認されます。
預貯金を提出する場合には、次の点も確認される可能性があります。
・預貯金額
・資金の形成過程
・一時的な入金ではないか
・毎月の生活費
・継続収入の有無
・家族人数との関係
継続的な収入と預貯金の双方を示せることが望ましいといえます。
12.理由書で説明すべきこと
扶養家族が多い場合、理由書や補足説明書で家計の状況を説明することがあります。
主な内容は、次のとおりです。
・家族構成
・世帯収入
・配偶者の就労状況
・住居費
・教育費
・海外送金
・預貯金
・今後の収入見込み
・日本での家族生活
・永住後の生活計画
必要に応じて、簡単な家計表を作成することも有効です。
収入だけでなく、家賃が低い、住宅ローンが完済している、配偶者にも収入があるなど、生活の安定性を示す事情を整理します。
13.申請前のチェックポイント
扶養家族が多い方は、申請前に次の点を確認します。
・課税証明書上の扶養人数
・実際の扶養人数
・海外扶養親族
・世帯全体の年収
・配偶者の収入
・家賃又は住宅ローン
・教育費
・海外送金額
・税金、年金、健康保険の未納
・家族全員の在留資格
・家族ごとの永住申請要件
・預貯金や資産
税務上の扶養、社会保険上の扶養、実際の生活上の扶養は、必ずしも同じではありません。
それぞれを分けて整理することが大切です。
14.まとめ
扶養家族が多いこと自体が、永住申請の不許可理由になるわけではありません。
しかし、家族の人数に対して収入が十分か、家族全体として安定した生活を続けられるかが確認されます。
この記事のポイントを整理すると、次のとおりです。
・永住申請では独立の生計を営めることが確認される
・全国一律の最低年収額は公表されていない
・本人の収入だけでなく、配偶者を含む世帯全体の収入が考慮される
・課税証明書から所得額と扶養人数が確認される
・海外扶養親族がいる場合は、送金と税務申告の整合性が重要である
・家族全員で申請する場合も、一人ずつ要件を確認する必要がある
・高度人材本人の在留期間短縮が、家族に当然に適用されるわけではない
・扶養家族が多い場合は、収入、住居費、教育費、預貯金を総合的に説明する
扶養家族が多い方は、年収だけで判断せず、家族構成と家計全体を整理してから永住申請を検討することが大切です。
次に読みたい関連記事
・Ⅲ-12.永住申請で必要になる住民税・国税の証明書
・Ⅲ-13.永住申請で年金記録・健康保険の納付状況を確認する方法
・Ⅲ-17.自営業者・会社経営者が永住申請をする場合の注意点
・Ⅲ-18.高度人材ポイントを使った永住申請の基本
・Ⅲ-11.永住申請で必要になる理由書の書き方
参考資料・出典
・永住許可に関するガイドライン 出入国在留管理庁ウェブサイトより
・永住許可申請 出入国在留管理庁ウェブサイトより
・永住許可申請3 出入国在留管理庁ウェブサイトより
・高度人材ポイント制Q&A 出入国在留管理庁ウェブサイトより
