Ⅲ-17.自営業者・会社経営者が永住申請をする場合の注意点

自営業者、個人事業主、会社の代表取締役、役員などが永住申請をする場合、会社員とは異なる資料や説明が必要になります。

会社員であれば、給与、源泉徴収票、在職証明書などによって、収入や雇用の継続性を比較的確認しやすいといえます。

一方、自営業者や会社経営者の場合、売上と所得が異なる、年度によって収入が変動する、会社と個人の税金が分かれている、社会保険の事業主としての納付状況も確認されるなど、審査資料が複雑になります。

「売上は多いのに所得が少ない場合はどうなりますか」

「会社が赤字だと永住申請できませんか」

「役員報酬を低く設定しています」

「法人税や会社の社会保険も見られますか」

「個人事業から法人化したばかりです」

このような相談を受けることがあります。

この記事では、自営業者・会社経営者が永住申請する場合の注意点を、収入、事業の継続性、税金、社会保険、会社資料、理由書の観点から解説します。

1.自営業者にも永住許可の一般要件が適用される

自営業者や会社経営者だから、特別に別の永住許可要件があるわけではありません。

基本となるのは、次の3つです。

・素行が善良であること
・独立の生計を営むに足りる資産又は技能を有すること
・永住が日本国の利益に合すると認められること

(出典:永住許可に関するガイドライン、出入国在留管理庁ウェブサイトより)

ただし、自営業者や経営者は、本人の生活基盤が事業の状態と密接に結び付いています。

そのため、本人の所得だけでなく、事業が現実に継続しているか、税金や社会保険を適正に処理しているかが重要になります。

2.売上ではなく「所得」と生活の安定性が見られる

自営業者が「年間売上は1,000万円あります」と説明しても、その全額が本人の生活に使えるわけではありません。

売上から仕入、家賃、外注費、人件費、広告費、減価償却費などを差し引いた後の所得が重要です。

永住申請では、課税証明書、確定申告書、納税証明書などから、実際の所得を確認します。

確認すべき点は、次のとおりです。

・年間売上
・必要経費
・所得額
・事業所得以外の収入
・扶養家族
・住居費
・借入金
・預貯金
・今後の売上見込み

経費を適正に計上した結果、課税所得が低くなることはあります。

しかし、所得が低い状態が続いている場合は、家族を含めて安定した生活ができるかを説明する必要があります。

3.会社経営者は役員報酬が重要になる

会社経営者の場合、会社の売上がそのまま本人の収入になるわけではありません。

本人の生活収入として確認されるのは、主に役員報酬、給与、配当などです。

会社に利益が出ていても、役員報酬が低い場合には、本人の生活基盤が十分であるかを説明する必要があります。

反対に、役員報酬が高くても、会社が継続的に赤字で、資金繰りが不安定であれば、報酬の継続性について確認される可能性があります。

次の点を整理します。

・会社の売上、利益
・役員報酬額
・報酬の支払実績
・決算状況
・会社の預金、借入金
・取引先
・事業の継続性
・本人の個人所得
・家族の収入

会社と個人の財布を明確に分け、役員報酬を適正に支給・申告していることが重要です。

4.赤字決算だから直ちに不許可とは限らない

会社が赤字であることだけで、永住申請が必ず不許可になるわけではありません。

創業初期、設備投資、新規事業、災害、市況変動などにより、一時的に赤字となることがあります。

重要なのは、次の点です。

・赤字の原因
・赤字が一時的か継続的か
・債務超過か
・資金繰り
・売上の推移
・翌期以降の回復見込み
・役員報酬の支払状況
・個人の生活資金

一時的な赤字であれば、決算書、事業計画、契約書、受注資料などにより、今後の回復見込みを説明できることがあります。

一方、長期間赤字が続き、役員報酬も支払われていない場合には、独立生計要件との関係で慎重な検討が必要です。

5.個人の税金を期限内に納める

自営業者や会社経営者も、住民税、所得税等の納付状況を確認されます。

永住許可ガイドラインでは、申請時に納付済みでも、当初の納付期限内に履行されていない場合は、原則として消極的に評価されるとされています。
(出典:永住許可に関するガイドライン、出入国在留管理庁ウェブサイトより)

自営業者は、会社員のように給与から自動的に税金が天引きされないことがあります。

次の税金について、申告と納付を確認します。

・所得税及び復興特別所得税
・住民税
・消費税及び地方消費税
・事業税
・固定資産税
・相続税、贈与税がある場合

永住申請では、国税の納税証明書その3なども提出します。

確定申告の内容と課税証明書の所得額が整合しているかも確認が必要です。

6.会社の税務・法令遵守も軽視できない

会社経営者の場合、本人個人の税金だけを整えればよいとは限りません。

会社の経営実態や法令遵守状況は、経営者としての活動の信用性や、収入の継続性に関係します。

確認すべき事項は、次のとおりです。

・法人税等の申告
・消費税の申告
・源泉所得税の納付
・給与支払報告
・役員報酬の処理
・社会保険加入
・労働保険
・事業に必要な許認可
・商業登記
・在留資格上認められた経営活動の実態

税務上の具体的な申告や修正が必要な場合は、税理士へ相談する必要があります。

7.社会保険適用事業所の事業主は会社分の資料も必要

申請人が社会保険適用事業所の事業主である場合は、本人の年金・健康保険資料だけでなく、事業所における社会保険料の納付状況を示す資料も求められます。

出入国在留管理庁の提出書類案内では、事業主である期間について、次のいずれかの提出が案内されています。

・健康保険・厚生年金保険料領収証書
・社会保険料納入証明書
・社会保険料納入確認書

(出典:永住許可申請3、出入国在留管理庁ウェブサイトより)

従業員分を含む社会保険料に未納や納付遅れがある場合は、経営者本人の永住申請にも影響する可能性があります。

会社の口座引落しや領収証書を普段から保存しておくことが大切です。

8.国民年金・国民健康保険期間にも注意する

個人事業主は、国民年金と国民健康保険に加入していることが多くあります。

会社経営者でも、法人化前の個人事業期間や、会社設立直後に切替えが遅れた期間があることがあります。

確認する事項は、次のとおりです。

・国民年金の納付
・国民健康保険料の納付
・厚生年金への切替日
・健康保険への切替日
・未加入期間
・納付遅れ
・免除、猶予の有無

個人事業から法人へ変更した場合は、制度の切替えに空白がないかを確認します。

9.事業の実態を説明できることが必要

特に在留資格「経営・管理」で在留している場合、実際に事業を経営・管理していることが前提です。

永住申請でも、現在の在留資格に応じた活動を適正に行ってきたかが確認されます。

事業実態を説明する資料として、次のようなものがあります。

・会社の登記事項証明書
・定款
・事務所の賃貸借契約書
・決算書
・確定申告書
・請求書、契約書
・預金通帳
・許認可証
・従業員資料
・事業案内
・取引実績

名目上だけ代表者となっている場合や、実際の経営活動が確認できない場合は、在留資格の適正性から問題となる可能性があります。

10.事業変更・法人化・廃業がある場合

永住申請前の数年間に、事業内容の変更、個人事業から法人化、会社の合併、廃業、新会社設立などがあった場合は、その経緯を説明します。

たとえば、次のような場合です。

・個人事業を廃業し法人を設立した
・複数の会社を経営している
・代表取締役を退任した
・会社を清算した
・事業内容を大きく変更した
・本店や事務所を移転した

税務、社会保険、登記、在留資格上の届出が適切に行われているかも確認します。

11.借入金がある場合

事業融資や住宅ローンがあることだけで、永住申請ができないわけではありません。

事業を営む上で、金融機関から融資を受けることは一般的です。

重要なのは、返済が滞っておらず、事業と生活が安定していることです。

次の点を整理します。

・借入先
・借入残高
・毎月の返済額
・返済状況
・借入目的
・事業収益とのバランス
・個人保証の有無

過大な債務があり、返済が困難な状態である場合には、生活の安定性について慎重に判断される可能性があります。

12.理由書で説明する内容

自営業者・会社経営者の永住申請では、理由書や事業説明書が重要になることがあります。

説明する内容は、次のとおりです。

・事業開始の経緯
・事業内容
・主要取引先
・売上と所得の推移
・役員報酬
・赤字の理由
・今後の事業計画
・従業員の状況
・許認可
・日本で事業を続ける理由
・家族の生活基盤

単に「事業は順調です」と書くのではなく、決算書や契約書などの資料と整合するように説明します。

13.行政書士と税理士の役割

行政書士は、永住申請の要件、提出資料、理由書、入管への説明を整理します。

一方、確定申告、法人税、消費税、修正申告、役員報酬の税務処理などは、税理士の専門分野です。

次のような問題がある場合は、税理士との連携が必要です。

・確定申告をしていない
・申告内容に誤りがある
・会社の税金に未納がある
・役員貸付金、役員借入金が多い
・消費税の納税義務が不明
・給与と外注費の区別に問題がある

永住申請だけのために数字を作り替えるのではなく、税務・会計を適正な状態に整えることが重要です。

14.まとめ

自営業者・会社経営者の永住申請では、個人の収入だけでなく、事業の継続性、税務、社会保険、会社の法令遵守が重要になります。

この記事のポイントを整理すると、次のとおりです。

・売上額ではなく所得と生活の安定性が確認される
・会社経営者は役員報酬の継続性が重要である
・赤字決算だけで直ちに不許可になるわけではない
・個人と会社の税務を分けて整理する必要がある
・税金は期限内に納付していることが重要である
・社会保険適用事業所の事業主は、会社の社会保険料納付資料も必要になる
・事業の実態と在留資格に応じた活動を説明できることが必要である
・法人化、事業変更、廃業等がある場合は経緯を整理する
・税務上の問題は税理士と連携する

自営業者・会社経営者は、必要資料が会社員より多くなる傾向があります。申請直前ではなく、早い段階で税金・社会保険・決算状況を確認することが大切です。

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・Ⅲ-11.永住申請で必要になる理由書の書き方
・Ⅳ-5.経営・管理ビザの更新で確認される決算・売上・事業実態

参考資料・出典

永住許可に関するガイドライン 出入国在留管理庁ウェブサイトより
永住許可申請3 出入国在留管理庁ウェブサイトより
永住許可申請 出入国在留管理庁ウェブサイトより