Ⅵ-18.特定技能・育成就労を受け入れる企業のコンプライアンス体制

特定技能や育成就労で外国人材を受け入れる企業には、通常の労務管理に加えて、在留資格、支援、分野別基準、届出、地域共生、外国人保護に関するコンプライアンス体制が求められます。

外国人材の受入れでは、次のような問題が起こりやすいです。

・在留資格で認められていない業務をさせてしまう
・許可前に働かせてしまう
・届出を忘れる
・支援計画を作っただけで実施していない
・賃金や控除が日本人と比べて不利になっている
・社会保険や税金の処理が不十分
・ハラスメントや差別的言動が放置される
・登録支援機関や監理団体へ丸投げしている
・現場責任者が制度を理解していない
・外国人本人が相談できず、離職や失踪につながる

特定技能・育成就労は、単なる採用制度ではありません。

企業全体で、外国人材を適正に雇用し、育成し、支援する体制を作る必要があります。

この記事では、特定技能・育成就労を受け入れる企業が整えるべきコンプライアンス体制について、在留資格、労務管理、支援、届出、ハラスメント、地域共生、外部機関との役割分担の観点から解説します。

コンプライアンス体制が必要な理由

特定技能や育成就労では、外国人本人だけでなく、受入れ企業側の体制も重視されます。

特定技能では、受入れ機関が適切であること、外国人を支援する体制があること、支援計画が適切であることが求められます。

出入国在留管理庁の制度概要資料でも、特定技能制度における受入れ機関の基準として、機関自体の適切性、支援体制、支援計画の適切性が示されています。
(出典:外国人労働者に関する制度概要、出入国在留管理庁ウェブサイトより)

育成就労制度でも、育成就労計画、監理支援機関、外国人育成就労機構による監理・支援が重要になります。

企業は、単に人手不足を補う目的で外国人を受け入れるのではなく、制度に適合した雇用管理を行う必要があります。

在留資格管理

外国人材受入れの基本は、在留資格管理です。

企業は、次の点を管理します。

・在留資格
・在留期限
・在留カード
・指定書
・許可された活動内容
・所属機関
・就業場所
・担当業務
・在留期間更新時期
・変更申請の必要性
・転職、退職時の対応

特定技能外国人の場合、許可された分野・業務区分に対応する業務に従事している必要があります。

育成就労外国人の場合も、育成就労計画に基づく活動が必要です。

現場の都合で業務を変更する場合は、在留資格上問題がないか確認します。

許可前就労を防ぐ

外国人材受入れで特に注意すべきなのが、許可前就労です。

在留資格認定証明書が交付される前、在留資格変更許可が出る前、転職先での変更許可が出る前に働かせることはできません。

企業は、次の管理を行います。

・内定日
・雇用契約締結日
・申請日
・許可日
・在留カード確認日
・就労開始日
・配属日
・研修開始日

「研修だけ」「見学だけ」「短時間だけ」として働かせることにも注意が必要です。

報酬の有無にかかわらず、実態として労務提供になっていれば問題になる可能性があります。

業務範囲の管理

特定技能では、分野と業務区分が重要です。

企業は、現場で次の点を管理します。

・対象業務に従事しているか
・付随業務が主たる業務になっていないか
・異動先も対象業務か
・複数店舗、複数現場での勤務に問題がないか
・業務区分が変わっていないか
・技能試験区分と業務が合っているか
・技能実習からの移行時に対応関係があるか

人事部が制度を理解していても、現場管理者が知らなければ対象外業務を任せてしまうことがあります。

制度上認められる業務範囲を、現場にも共有する必要があります。

雇用契約と報酬

特定技能外国人には、日本人と同等以上の報酬が必要です。

企業は、次の点を確認します。

・雇用契約書
・労働条件通知書
・基本給
・手当
・残業代
・賞与
・昇給
・控除
・寮費
・食費
・同等業務の日本人賃金
・賃金台帳
・給与明細

外国人だから低い給与、外国人だけ昇給なし、外国人だけ不合理な控除という取扱いはできません。

また、建設分野のように、月給制や同一技能の日本人同等額以上が特に重視される分野もあります。

労働時間・休日・安全衛生

外国人材にも、日本人と同じく労働関係法令が適用されます。

企業は、次の体制を整えます。

・労働時間管理
・休憩時間
・休日
・時間外労働
・36協定
・深夜労働
・割増賃金
・有給休暇
・健康診断
・安全衛生教育
・労災対応
・熱中症対策
・危険作業教育

特に建設、製造、介護、宿泊、外食などでは、現場特有の事故リスクがあります。

外国人本人が理解できる言語・方法で教育することが重要です。

社会保険・税金

特定技能・育成就労では、税金や社会保険の適正な処理も重要です。

企業は、次の点を管理します。

・健康保険
・厚生年金
・雇用保険
・労災保険
・源泉所得税
・住民税
・社会保険料
・労働保険料
・年末調整
・退職時の手続き
・転職時の書類交付

外国人本人には、給与から控除される税金や社会保険料について、理解できる言語で説明します。

説明不足により「給与が聞いていた額より少ない」と感じると、トラブルの原因になります。

支援計画の実施

特定技能1号では、支援計画を作成し、実施する必要があります。

支援計画には、事前ガイダンス、送迎、住居確保、生活オリエンテーション、日本語学習機会、相談対応、定期面談などが含まれます。

出入国在留管理庁は、1号特定技能外国人支援について、支援計画に基づく支援を実施する必要があると案内しています。
(出典:1号特定技能外国人支援・登録支援機関について、出入国在留管理庁ウェブサイトより)

支援計画は、作成して提出するだけでは足りません。

企業は、実施記録、面談記録、相談記録を残します。

登録支援機関に委託している場合でも、支援が実際に行われているかを確認します。

届出管理

特定技能所属機関には、随時届出と定期届出があります。

随時届出には、雇用契約の変更、終了、支援計画の変更、登録支援機関との契約変更、受入れ困難などがあります。

定期届出では、受入れ状況、活動状況、支援実施状況などを届け出ます。

2025年4月以降、定期届出は対象年4月1日から翌年3月31日までの状況について、翌年4月1日から5月31日までに提出する年1回の方式になっています。
(出典:特定技能所属機関・登録支援機関による届出、出入国在留管理庁ウェブサイトより)

企業は、届出管理表を作成し、期限と担当者を明確にします。

地方自治体との共生施策

2025年4月以降、特定技能所属機関には、地方自治体の共生施策への協力も求められています。

受入れ企業は、特定技能外国人が活動する事業所の所在地と住居地が属する市区町村に協力確認書を提出します。

また、地方公共団体が実施する共生施策を確認し、支援計画に反映する必要があります。
(出典:特定技能制度における地域の共生施策に関する連携、出入国在留管理庁ウェブサイトより)

企業は、次の情報を確認します。

・ごみ出しルール
・防災情報
・医療機関
・日本語教室
・外国人相談窓口
・地域イベント
・災害時の避難場所
・生活ガイド

外国人が地域で孤立しないよう、会社と地域が連携することが重要です。

ハラスメント・差別防止

外国人材の受入れでは、ハラスメントや差別防止も重要です。

企業は、次の問題が起きないようにします。

・国籍差別
・宗教、文化への無理解
・日本語能力を理由にした侮辱
・暴言、叱責
・パワーハラスメント
・セクシュアルハラスメント
・カスタマーハラスメント
・相談しても放置される状態
・寮や生活面での過度な管理

外国人本人が安心して相談できる窓口を設け、登録支援機関、監理支援機関、行政書士等とも連携できる体制を作ります。

保証金・違約金・費用負担

外国人材受入れで特に注意すべきなのが、保証金、違約金、不当な費用負担です。

特定技能では、外国人本人やその親族から保証金を徴収したり、違約金を定めたりする契約に関与している場合、問題となります。

企業は、次の点を確認します。

・送出機関の費用
・紹介料
・保証金
・違約金
・借金
・本人負担費用
・寮費
・食費
・制服代
・渡航費
・退職時の費用請求

本人が理解しないまま多額の費用を負担している場合、失踪やトラブルにつながります。

採用前に、本人がどのような費用を負担しているか確認します。

外部機関への丸投げを防ぐ

登録支援機関、監理団体、監理支援機関、行政書士、社労士、税理士など、外国人材受入れには多くの外部機関が関わります。

しかし、外部機関に委託しても、企業の雇用主としての責任は残ります。

企業が自ら確認すべき事項は、次のとおりです。

・外国人の業務内容
・労働条件
・給与支払い
・労働時間
・支援実施状況
・面談結果
・届出状況
・在留期限
・現場でのトラブル
・本人の相談内容

外部機関の役割と、企業自身の責任を契約書や運用ルールで明確にします。

社内体制の作り方

特定技能・育成就労を受け入れる企業は、次のような社内体制を作ることが望ましいです。

・外国人雇用責任者
・在留期限管理担当
・労務管理担当
・支援担当
・現場責任者
・相談窓口
・登録支援機関等との連絡担当
・行政書士との連絡担当
・緊急時対応担当
・ハラスメント相談担当

また、次の管理表を作成すると有効です。

・在留資格管理表
・在留期限管理表
・届出管理表
・支援実施記録
・面談記録
・研修記録
・労働時間管理表
・給与確認表
・協議会加入管理表
・分野別要件チェック表

担当者が退職しても運用が止まらないよう、属人的な管理を避けることが重要です。

受入れ前チェックリスト

外国人材を受け入れる前に、次の点を確認します。

・対象分野に該当するか
・担当業務が対象業務か
・本人の試験・技能実習修了状況
・在留資格申請の種類
・許可前就労を防ぐ入社日設定
・雇用契約
・日本人同等以上の報酬
・社会保険
・税金
・支援計画
・登録支援機関
・協議会加入
・自治体への協力確認書
・寮、住居
・日本語支援
・安全衛生教育
・相談窓口

採用内定を出す前に、制度上受け入れ可能かを確認します。

受入れ後チェックリスト

受入れ後は、次の点を継続的に確認します。

・在留期限
・在留期間更新時期
・業務内容
・配置変更
・給与支払い
・労働時間
・休日、有給休暇
・支援実施状況
・定期面談
・相談内容
・届出漏れ
・協議会情報変更
・住居変更
・退職、転職希望
・ハラスメント
・労災、事故
・税金、社会保険

外国人材の受入れは、許可を受けた後の管理が重要です。

まとめ

特定技能・育成就労を受け入れる企業には、在留資格、労務、支援、届出、地域共生、ハラスメント防止を含めた総合的なコンプライアンス体制が必要です。

この記事のポイントを整理すると、次のとおりです。

・特定技能・育成就労は、単なる採用制度ではない
・在留資格、在留期限、業務範囲を管理する必要がある
・許可前就労を防ぐため、就労開始日を正確に管理する
・対象外業務や無断配置変更に注意する
・報酬は日本人同等以上でなければならない
・労働時間、安全衛生、社会保険、税金を適正に処理する
・特定技能1号では支援計画を実施し、記録を残す必要がある
・随時届出、定期届出を期限内に行う必要がある
・地方自治体の共生施策への協力も必要である
・ハラスメント、差別、不当な費用負担を防ぐ体制が必要である
・登録支援機関や監理支援機関へ委託しても、企業の雇用主としての責任は残る
・社内で担当者、管理表、チェックリストを整備することが重要である

外国人材を適正に受け入れる企業は、単に人手不足を解消するだけでなく、外国人本人が安心して働き、地域で生活できる環境を作る必要があります。

コンプライアンス体制は、企業を守るためだけでなく、外国人本人と職場全体を守るための仕組みです。

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・Ⅵ-3.特定技能外国人を雇用する企業に求められる受入体制
・Ⅵ-4.特定技能の支援計画とは?企業が準備すべき内容
・Ⅵ-5.登録支援機関とは?利用する場合・自社支援する場合の違い
・Ⅵ-15.育成就労制度とは?技能実習との違いと今後の影響
・Coffee Break.外国人雇用と在留資格情報の管理|企業はどこまで個人情報に踏み込むべきか

参考資料・出典

特定技能制度 出入国在留管理庁ウェブサイトより
外国人労働者に関する制度概要 出入国在留管理庁ウェブサイトより
特定技能外国人受入れに関する運用要領 出入国在留管理庁ウェブサイトより
1号特定技能外国人支援・登録支援機関について 出入国在留管理庁ウェブサイトより
特定技能所属機関・登録支援機関による届出 出入国在留管理庁ウェブサイトより
特定技能制度における地域の共生施策に関する連携 出入国在留管理庁ウェブサイトより
外国人育成就労制度について 厚生労働省ウェブサイトより
育成就労制度の概要 出入国在留管理庁ウェブサイトより