Ⅳ-4.外国人起業家のための事業計画書作成のポイント

外国人が日本で起業し、在留資格「経営・管理」を申請する場合、事業計画書は重要な資料の一つです。

設立直後の会社では、まだ十分な売上実績がないことが多いため、今後どのように事業を行い、売上を得て、必要な経費を支払い、事業を継続していくのかを具体的に説明する必要があります。

また、2025年10月16日に施行された「経営・管理」の基準改正により、新たに在留資格「経営・管理」の決定を受ける際に提出する事業計画書については、経営に関する専門的な知識を有する者による評価を受けることが必要となりました。

そのため、現在の事業計画書は、単に申請人の希望や将来の目標を記載するだけでは足りません。事業内容、売上の根拠、必要経費、資金繰り、人員体制、許認可、経営者の経験などについて、第三者が検証できる具体性と合理性が求められます。

経営・管理ビザの要件全体については、先に「Ⅳ-2.経営・管理ビザの基本|会社設立だけでは足りない理由」をご確認ください。

この記事では、外国人起業家が経営・管理ビザの申請に向けて事業計画書を作成する際のポイントを整理します。

1.事業計画書が重要になる理由

経営・管理ビザでは、外国人本人が事業の経営又は管理に実質的に参画することが必要です。

さらに、事業所、資本金等、常勤職員、経営者の学歴・職歴、日本語による事業運営体制、必要な許認可などの基準も確認されます。

事務所、資本金、常勤職員、事業計画の関係については、「Ⅳ-3.経営・管理ビザで求められる事務所・資本金・事業計画」で詳しく解説しています。

事業計画書は、主に次の事項を説明する資料です。

  • どのような事業を行うのか
  • なぜ日本でその事業を行うのか
  • 誰に商品・サービスを提供するのか
  • どのように顧客を獲得するのか
  • どのように売上を得るのか
  • どの程度の経費がかかるのか
  • 資本金や事業資金をどのように使用するのか
  • 常勤職員を含む人員体制を維持できるか
  • 事業を継続できる見込みがあるか
  • 経営者本人がどのような役割を果たすのか
  • 必要な営業許可等を取得できるか

会社の登記が完了していても、事業内容や収益構造が明確でなければ、事業の具体性・合理性・実現可能性・継続性を説明することは困難です。

事業計画書は、会社が存在することを示す書類ではなく、「この会社が実際にどのように事業を行い、継続していくのか」を説明するための資料です。

2.専門家による事業計画書の評価

2025年10月16日施行の改正後は、新たに在留資格「経営・管理」の決定を受ける際に提出する事業計画書について、経営に関する専門的な知識を有する者による評価を受ける必要があります。

出入国在留管理庁は、事業計画書を評価する専門家として、次の日本の資格を有する者を挙げています。

  • 中小企業診断士
  • 公認会計士
  • 税理士

専門家による評価は、事業計画書に名前を記載してもらうだけの形式的な手続ではありません。

事業計画に具体性、合理性、実現可能性があるかという観点から確認を受けるため、少なくとも次の事項を客観的に説明できる内容にする必要があります。

  • 売上予測の計算根拠
  • 商品・サービスの価格設定
  • 原価と利益率
  • 取引先や顧客の見込み
  • 資本金等の使用計画
  • 常勤職員の人件費
  • 事務所・店舗の維持費
  • 設備投資と運転資金
  • 必要な許認可の取得見込み
  • 資金不足が生じないか
  • 事業が継続できるか

詳しくは、出入国在留管理庁の「在留資格「経営・管理」に係る上陸基準省令等の改正について」をご確認ください。

行政書士に事業計画書の作成支援や入管申請書類の作成を依頼する場合でも、この制度上必要となる専門家評価とは分けて考える必要があります。行政書士が中小企業診断士、公認会計士又は税理士の資格を有していない場合、行政書士による確認だけで、制度上必要な専門家評価に代えることはできません。

3.事業計画書に入れる主な項目

事業計画書には、次のような項目を入れると整理しやすくなります。

項目記載する主な内容
事業概要どのような商品・サービスを提供する事業か
起業の背景なぜ日本でその事業を行うのか
代表者の経歴学歴、職歴、経営経験、専門性、語学力
商品・サービス提供内容、価格、特徴、競合との違い
市場・顧客想定顧客、市場規模、需要、競合
販売方法店舗、EC、紹介、訪問営業、広告など
取引先仕入先、販売先、業務提携先、取引条件
売上計画月別・年別の売上見込みと計算根拠
経費計画家賃、人件費、仕入費、広告費、社会保険料等
資金計画資本金、借入金、設備資金、運転資金
人員計画常勤職員、その他の従業員、職務分担
事業所所在地、広さ、使用方法、設備
日本語対応体制取引、契約、従業員管理、行政手続等への対応
許認可必要な営業許可、登録、届出と取得状況
経営者の役割経営判断、営業、資金管理、人事管理等
リスク対策売上未達、原価上昇、資金不足等への対応
将来計画事業拡大、追加雇用、出店、設備投資等

単に「将来性がある」「需要が見込まれる」と書くだけでは不十分です。

事業計画書に記載した内容が、会社の定款、登記事項証明書、事務所の賃貸借契約書、雇用契約書、取引資料、資金資料などと一致していることも重要です。

個人事業として行うか、会社を設立するかによっても、資金計画や事業実態の説明方法が異なります。詳しくは、「Ⅳ-6.個人事業と会社設立、在留資格申請では何が違うのか」をご参照ください。

4.商品・サービスと収益の仕組みを具体化する

事業計画書では、提供する商品・サービスを具体的に説明します。

たとえば、単に「貿易業を行う」「コンサルティング業を行う」「飲食店を経営する」と記載するだけでは、事業の実態や収益の仕組みが分かりません。

次のような点を整理します。

  • 具体的に何を販売又は提供するのか
  • 商品・サービスの価格はいくらか
  • 誰が顧客になるのか
  • 顧客はなぜその商品・サービスを購入するのか
  • 競合他社との違いは何か
  • どの地域・市場を対象とするのか
  • どのような方法で顧客を獲得するのか
  • 仕入れ、販売、納品、代金回収までの流れ
  • 利益がどこから生じるのか

貿易業であれば、取扱商品、仕入先、販売先、輸送方法、通関、在庫、代金決済、為替リスクなどを整理します。

飲食業であれば、店舗の立地、席数、客単価、回転率、営業時間、営業日数、原価率、従業員数などを整理します。

コンサルティング業であれば、具体的な相談分野、顧客層、契約形態、報酬額、業務の提供方法、集客方法、本人の経験との関係などを説明します。

事業名や業種名ではなく、実際の取引の流れが分かるように記載することが重要です。

5.売上計画は現実的に作る

売上計画は、過大に書けばよいというものではありません。

根拠のない高い売上予測は、かえって事業計画の信頼性を下げる可能性があります。

売上計画では、次の点を整理します。

  • 商品・サービスの単価
  • 月間販売数
  • 想定顧客数
  • 契約件数
  • 来店客数
  • 受注見込み
  • 既存の取引先
  • 営業方法
  • 季節変動
  • 代金の回収時期
  • 消費税の取扱い

たとえば、月間売上は、次のような計算によって説明できます。

  • 商品単価×月間販売数量
  • 客単価×1日当たりの来店客数×営業日数
  • 月額契約料×契約社数
  • 1件当たりの報酬額×月間受注件数

計算結果だけでなく、なぜその販売数量、来店客数、契約社数を見込めるのかを説明する必要があります。

その根拠として、取引先候補との協議記録、見積書、仮契約書、既存顧客、過去の事業経験、市場調査、競合店舗の状況などを示すことが考えられます。

6.経費計画と資金繰りも重要

売上だけでなく、経費計画と資金繰りも重要です。

主な経費には、次のようなものがあります。

  • 事務所・店舗の賃料
  • 敷金、保証金、仲介手数料
  • 内装・設備費
  • 常勤職員その他の従業員の人件費
  • 社会保険料・労働保険料
  • 仕入費用
  • 広告宣伝費
  • 通信費
  • 水道光熱費
  • 交通費
  • 倉庫費・物流費
  • 外注費
  • 許認可費用
  • 税理士その他の専門家費用
  • 租税公課
  • 借入金の返済
  • 予備費

2025年10月16日施行の改正後は、原則として対象となる常勤職員を1人以上雇用する必要があります。そのため、事業計画書の人件費には、給与だけでなく、会社が負担する社会保険料や採用費用なども反映させる必要があります。

また、利益が出る計画であっても、売上代金の回収前に家賃、給与、仕入代金などの支払いが発生すると、資金不足になることがあります。

そのため、損益計画だけでなく、次の点も確認します。

  • 事業開始時に必要となる資金
  • 毎月の固定費
  • 売上代金を回収する時期
  • 仕入代金や給与を支払う時期
  • 売上が計画を下回った場合の運転資金
  • 追加出資や借入れの可能性
  • 生活費と事業資金の区分

法人と個人事業では、事業規模の説明方法も異なります。法人の場合は資本金又は出資の総額、個人事業の場合は事業所の確保、職員給与、設備投資など、事業のために実際に投下された金額を整理する必要があります。

7.経営者本人の役割と経歴を明確にする

経営・管理ビザでは、外国人本人が事業の経営又は管理に実質的に関わることが重要です。

事業計画書では、本人が行う業務を明確にします。

たとえば、次のような業務です。

  • 経営方針の決定
  • 事業計画の策定
  • 資金管理
  • 取引先の開拓・交渉
  • 従業員の採用・労務管理
  • 商品・サービスの企画
  • 営業戦略の決定
  • 重要な契約の締結
  • 予算・決算管理
  • 許認可や行政手続の管理

本人が単に出資しているだけで、実際の経営は別の人が行う場合には、「経営・管理」に該当する活動として説明しにくくなります。

また、2025年10月16日施行の改正後は、申請人について、経営・管理に関する一定の学歴又は実務経験も確認されます。

そのため、本人の学歴・職歴を列挙するだけでなく、これまでの経験が予定している事業にどのように役立つのかを説明することが重要です。

たとえば、次のような関係を整理します。

  • 過去の勤務先で同種の商品を扱っていた
  • 経営・管理業務を担当していた
  • 海外で同種の事業を経営している
  • 業界の取引先や顧客とのネットワークがある
  • 商品・サービスに関する専門知識がある
  • 日本市場と海外市場をつなぐ経験や語学力がある

事業内容、経営者の経歴、本人が行う業務の三つが一致していることが重要です。

8.裏付け資料を添える

事業計画書は、文章だけでなく、裏付け資料と組み合わせることが重要です。

たとえば、次のような資料が考えられます。

  • 会社案内
  • 商品・サービスの説明資料
  • 商品パンフレット
  • 契約書・仮契約書
  • 見積書
  • 発注書
  • 取引先候補とのメール
  • 意向表明書
  • 市場調査資料
  • 競合調査資料
  • 事務所・店舗の賃貸借契約書
  • 事務所・店舗の図面や写真
  • 設備の見積書・領収書
  • 常勤職員の雇用契約書
  • 許認可証又は許認可申請書類
  • 資本金の形成過程を示す資料
  • 海外からの送金記録
  • 事業用口座の入出金記録
  • ホームページや広告資料

裏付け資料があることで、事業計画が単なる構想ではなく、既に実行に向けて進んでいることを説明しやすくなります。

一方、形式だけ整えるために実態のない契約書や見積書を作成したり、事実と異なる取引見込みを記載したりしてはいけません。

事業計画書、会社関係資料、資金資料、取引資料が相互に一致している必要があります。

9.事業計画書と他の申請資料を一致させる

事業計画書だけが整っていても、他の申請資料と内容が矛盾していれば、申請全体の信頼性に影響します。

特に、次の事項を確認します。

  • 定款の事業目的
  • 登記事項証明書の会社情報
  • 事務所の賃貸借契約
  • 資本金額
  • 出資者と持株比率
  • 資本金の出所
  • 常勤職員の人数
  • 雇用契約の内容
  • 給与額
  • 社会保険への加入
  • 取引先・仕入先
  • 売上・経費の金額
  • 経営者の役職と担当業務
  • 必要な許認可
  • 申請書に記載した事業内容

また、会社設立時の事業計画は、在留期間更新時にも関係します。

更新申請では、当初の事業計画と実際の売上、決算、取引、雇用状況などが比較されることがあります。計画と実績に差がある場合には、その理由と今後の改善策を説明できるようにしておく必要があります。

更新時の確認事項については、「Ⅳ-5.経営・管理ビザの更新で確認される決算・売上・事業実態」をご参照ください。

10.よくある注意点

事業計画書では、次の点に注意が必要です。

  • 事業内容が抽象的である
  • なぜ日本で事業を行うのか説明できていない
  • 売上見込みの計算根拠がない
  • 経費を低く見積もりすぎている
  • 常勤職員の人件費や社会保険料を反映していない
  • 売上と入金時期の違いを考慮していない
  • 取引先や顧客獲得方法が具体化されていない
  • 代表者の学歴・職歴と事業内容の関係が弱い
  • 経営者本人の役割が不明確である
  • 許認可の必要性を確認していない
  • 資本金の出所や送金経路を説明していない
  • 事務所や人員体制との整合性がない
  • 会社の定款や登記事項と事業計画が一致していない
  • 個人事業と法人の違いを反映していない
  • 専門家による事業計画書の評価を受けていない
  • インターネット上の事業計画書をそのまま使用している
  • 実態のない契約書や見積書を裏付け資料としている

日本政策金融公庫の「創業計画の書き方」は、売上、経費、資金調達などを整理する際の参考になります。

ただし、日本政策金融公庫の創業計画書と、経営・管理ビザ申請で提出する事業計画書は、目的や確認項目が完全に同じではありません。

経営・管理ビザ申請では、融資の返済可能性だけでなく、在留資格の要件、事業所、資本金等、常勤職員、経営者の役割、学歴・職歴、日本語による事業運営体制、許認可なども含めて説明する必要があります。

11.まとめ

外国人起業家が経営・管理ビザを申請する場合、事業計画書は重要な資料です。

事業計画書では、事業内容、顧客、販売方法、売上計画、経費計画、資金計画、人員計画、経営者本人の役割を具体的に整理する必要があります。

設立直後の会社では、実績が少ない分、事業計画の具体性と裏付け資料が重要になります。

また、2025年10月16日施行の改正後は、新たに在留資格「経営・管理」の決定を受ける際の事業計画書について、中小企業診断士、公認会計士又は税理士による評価を受ける必要があります。

事業計画書だけを単独で作成するのではなく、事務所、資本金、常勤職員、雇用契約、許認可、取引資料、経営者の経歴などと整合させて準備することが大切です。

12.事業計画書作成・経営管理ビザに関するご相談

経営・管理ビザの事業計画書では、申請人の起業構想を文章にするだけでなく、売上の根拠、必要経費、資金繰り、常勤職員、事業所、許認可、経営者の経験などを、客観的な資料と対応させて整理する必要があります。

行政書士TMY総合法務事務所では、外国人起業家の事業内容の整理、事業計画書・申請理由書の作成、会社設立・事業所・資本金・常勤職員等の要件確認、在留資格認定証明書交付申請、在留資格変更許可申請、入管への申請取次などについてご相談を承ります。

また、現行制度上必要となる中小企業診断士、公認会計士又は税理士による事業計画書の評価を受けることを見据え、評価の前提となる事業内容、売上根拠、経費、資金計画、裏付け資料の整理を支援します。

「事業計画をどの程度具体化すればよいか分からない」「売上計画の根拠を示せない」「事務所や常勤職員の要件と事業計画が合っているか確認したい」「専門家の評価を受ける前に内容を整理したい」といった場合には、会社設立や事務所契約を進める前にご相談ください。

相談方法、対応内容等の詳細は、「行政書士TMY総合法務事務所へのお問い合わせ」をご確認のうえ、ご連絡ください。

※行政書士に依頼した場合でも、在留資格の許可が保証されるものではありません。許可・不許可を判断するのは出入国在留管理庁です。

※制度上必要となる事業計画書の評価は、中小企業診断士、公認会計士又は税理士の資格を有する専門家が行います。

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