Ⅴ-19. 退去強制と出国命令制度とは|制度の違い・手続の流れ・歴史的変遷をわかりやすく解説

在留資格に関する相談の中で、とても重い意味を持つ言葉に「退去強制」と「出国命令」があります。

どちらも、日本に在留している外国人が、入管法上の問題により日本から出国することに関わる制度です。

退去強制は、入管法上の退去強制事由に該当する外国人について、法律で定められた手続に従って日本から退去させる制度です。一方、出国命令制度は、一定の要件を満たす不法残留者について、収容をしないまま、比較的簡易な手続で自発的な出国を促す制度です。

一般には「強制送還」「国外退去」「オーバーステイで帰国する手続」などと表現されることもありますが、制度としては、それぞれ意味が異なります。

この記事では、退去強制と出国命令制度について、初めてこの言葉を聞く方にも分かるように、制度の内容、違い、手続の流れ、歴史的変遷、実務上の注意点を整理します。

(参考:「退去強制手続と出国命令制度」~出入国在留管理局ホームページより)

退去強制とは何か

退去強制とは、入管法第24条に規定されている退去強制事由に該当する外国人を、日本の領域外へ退去させるための行政手続です。

退去強制の対象となり得る典型例としては、不法入国、不法上陸、不法残留、一定の刑罰法令違反、在留資格取消し後の残留、在留資格で認められた範囲を大きく逸脱した活動などがあります。

ここで重要なのは、退去強制は「刑罰そのもの」ではないという点です。退去強制は、刑事裁判で有罪となった人に科される刑罰ではなく、出入国と在留の公正な管理を図るために、一定の外国人を日本から退去させる行政上の措置です。

もっとも、本人にとっては、日本での生活、仕事、家族関係、将来の再入国に大きな影響を与える重大な手続です。そのため、法律上も、違反調査、違反審査、口頭審理、異議申出、法務大臣の裁決など、段階的な手続が設けられています。

出国命令制度とは何か

出国命令制度とは、入管法違反者のうち、一定の要件を満たす不法残留者について、収容をしないまま、簡易な手続により日本から出国させる制度です。

退去強制と比べると、出国命令制度は、本人が速やかに日本から出国する意思を示し、一定の条件を満たす場合に、より簡易な形で出国を認める制度といえます。

出国命令制度の対象となるためには、主に次のような要件を満たす必要があります。

  • 入国警備官の違反調査の開始前に、速やかに日本から出国する意思をもって自ら出入国在留管理官署に出頭したこと、または、違反調査の開始後であっても、入国審査官の違反審査により退去強制事由に該当する旨の通知を受ける前に、速やかに出国する意思を入国審査官または入国警備官に表明したこと
  • 対象となる違反が不法残留であり、不法残留以外の退去強制事由に該当しないこと
  • 窃盗罪等の一定の罪により拘禁刑に処せられた者でないこと
  • 過去に日本から退去強制されたこと、または出国命令を受けて出国したことがないこと
  • 速やかに日本から出国することが確実と見込まれること

このように、出国命令制度は、すべての不法滞在者が使える制度ではありません。不法入国、偽造旅券による入国、重大な刑罰法令違反、過去の退去強制歴がある場合などは、出国命令制度の対象とならないことがあります。

【参考:「退去強制手続・出国命令制度・上陸拒否期間の短縮決定Q&A」出入国在留管理局ホームページより】

退去強制と出国命令制度の大きな違い

退去強制と出国命令制度の最も大きな違いは、制度の目的と対象者です。

退去強制は、入管法第24条の退去強制事由に該当する外国人を、法律上の手続に従って日本から退去させる制度です。本人が日本に残ることを希望する場合には、手続の中で在留特別許可を求めることがありますが、在留特別許可は例外的な措置であり、必ず認められるものではありません。

これに対して、出国命令制度は、一定の要件を満たす不法残留者が、速やかに日本から出国することを前提とする制度です。外国人が日本に残ることを求める制度ではなく、自ら出国する意思を示すことで、一定の優遇措置を受ける事のできる制度と言えます。

また、上陸拒否期間にも違いがあります。

不法残留等を理由に退去強制された場合、原則として退去強制された日から5年間は日本に上陸できません。過去に退去強制歴や出国命令による出国歴がある、いわゆるリピーターの場合は、原則として10年間の上陸拒否期間となります。これに対して、出国命令により出国した場合の上陸拒否期間は、原則として出国した日から1年間です。

この違いは、将来もう一度日本に入国したい方にとって非常に重要です。

なお、令和5年改正後は、退去強制令書の発付を受けた場合であっても、一定の要件を満たして自費出国許可を受け、自らの負担で出国しようとする場合には、上陸拒否期間の短縮決定を受けられることがあります。この場合、短期滞在で上陸しようとする場合を除き、上陸拒否期間が5年から1年に短縮されることがあります。

したがって、退去強制の場合は常に5年または10年だけで整理するのではなく、出国命令による出国なのか、退去強制令書発付後の自費出国なのか、上陸拒否期間の短縮決定の対象となるのかを分けて確認する必要があります。

制度の歴史的変遷

退去強制の制度自体は、戦後の出入国管理制度の中で、日本における外国人の出入国と在留を管理するための基本的な制度として整備されてきました。現在の入管法は、正式には「出入国管理及び難民認定法」といい、日本に入国・在留する外国人の公正な管理を図るための基本法です。

その後、時代の変化に応じて入管法は何度も改正されてきました。

特に重要なのが、平成16年、つまり2004年の入管法改正です。この改正では、在留資格取消制度の創設、仮滞在許可制度の創設、出国命令制度の創設、不法入国罪等の罰則強化などが行われました。

【参考:「最近の入管法改正」出入国在留管理局ホームページより】

出国命令制度は、この平成16年改正によって設けられた制度です。当時、不法滞在者をどのように減らすかが大きな課題となっており、一定の要件を満たして自発的に出頭し帰国する不法残留者については、退去強制手続よりも簡易な手続で出国させる制度が作られました。

さらに、令和5年、つまり2023年の入管法改正では、退去強制や送還に関する制度にも大きな見直しが行われました。この改正では、補完的保護対象者認定制度の創設、在留特別許可制度の適正化、送還停止効の例外規定、罰則付き退去等命令制度、監理措置制度、自発的な帰国を促すための措置の拡大などが盛り込まれ、これらの多くは令和6年6月10日に施行されています。

出国命令制度についても、令和5年改正により、自発的な出国をさらに促す観点から対象が拡大されています。従来は、入国警備官の違反調査開始前に自ら出頭した場合が中心でしたが、現在は、違反調査開始後であっても、入国審査官の違反審査により退去強制事由に該当する旨の通知を受ける前に、速やかに出国する意思を表明した場合には、一定の要件のもとで出国命令制度の対象となり得ます。

【参考:「令和5年改正入管法について」出入国在留管理局ホームページより】

退去強制手続の流れ

退去強制手続は、一般的に次のような流れで進みます。

1 違反調査

最初の段階は、入国警備官による違反調査です。

入管法に違反している疑いがある場合、入国警備官は、本人の入国・在留の経緯、在留期限、在留資格、就労状況、刑罰歴、家族関係などを調査します。

端緒としては、摘発、通報、警察等からの引渡し、本人の出頭申告などがあります。

出頭申告をした場合でも、その時点で不法残留などの法違反状態が当然に解消されるわけではありません。出入国在留管理庁のQ&Aでも、出頭しただけで法違反状態がなくなるわけではなく、法務大臣から特別に在留が認められない限り、原則として就労も認められないと説明されています。

【参考:「退去強制手続・出国命令制度・上陸拒否期間の短縮決定Q&A」出入国在留管理局ホームページより】

2 収容または監理措置

違反調査の結果、退去強制事由に該当する疑いがある場合、従来は収容を前提として手続が進む場面が多くありました。

もっとも、令和5年改正入管法により、収容に代わる制度として「監理措置制度」が創設されました。監理措置とは、監理人による監理の下で、逃亡等を防止しつつ、一定の条件のもとで社会内で生活しながら退去強制手続を進める制度です。

そのため、現在は、すべての事案で必ず収容されるという単純な理解は適切ではありません。個別の事情、逃亡のおそれ、生活状況、家族状況、健康状態などを踏まえて、収容される場合もあれば、監理措置のもとで手続が進む場合もあります。

3 入国審査官への引渡しと違反審査

違反調査により容疑者が収容された場合、入国警備官は、原則として身体を拘束した時から48時間以内に、調書や証拠物とともに容疑者を入国審査官に引き渡すことになります。

【参考:「引渡し・違反審査・口頭審理・異議申出・裁決・在留特別許可」出入国在留管理局ホームページより】

入国審査官は、引渡しを受けた後、その外国人が退去強制事由に該当するかどうかを審査します。

この段階で、退去強制事由に該当しないと判断されれば、退去強制手続はその方向では進みません。一方、退去強制事由に該当すると判断された場合には、次の手続に進みます。

また、この段階で出国命令対象者に該当すると判断される場合には、退去強制手続ではなく、出国命令制度の手続に進むことがあります。

4 口頭審理

入国審査官の認定に不服がある場合には、特別審理官に対して口頭審理を求めることができます。

口頭審理では、入国審査官の認定に誤りがないか、本人側に主張すべき事情があるかなどが確認されます。

本人が退去強制事由に該当すること自体を争う場合もありますし、退去強制事由には該当するものの、日本人配偶者や子どもがいる、日本での生活基盤が長い、病気や人道上の事情があるなどとして、在留特別許可を求める場合もあります。

5 異議申出と法務大臣の裁決

口頭審理の結果にも不服がある場合には、法務大臣に対して異議の申出を行うことができます。

法務大臣は、退去強制事由に該当するか、在留を特別に許可すべき事情があるかなどを総合的に判断します。

ここで、在留を認めるべき特別な事情があると判断されれば、在留特別許可が認められることがあります。

令和5年改正後は、在留特別許可について申請手続が設けられ、判断に当たって考慮される事情も法律上明確化されました。また、在留特別許可が認められなかった場合には、その理由が通知されることになっています。

もっとも、在留特別許可が例外的な措置であることに変わりはありません。申請をしたからといって当然に許可されるものではなく、本人の在留状況、違反の内容、家族関係、生活実態、人道上の事情、消極事情などを総合的に考慮して判断されます。

6 退去強制令書の発付と送還

異議の申出に理由がないと判断され、在留特別許可も認められない場合には、退去強制令書が発付されます。令和5年改正後は、在留特別許可が認められなかった場合には、その理由が通知されます。

退去強制令書が発付されると、入国警備官は、退去強制を受ける外国人に退去強制令書またはその写しを示して、速やかに送還することになります。

もっとも、退去強制令書の発付後であっても、自費出国許可を受けて、自らの負担で出国しようとする場合には、一定の要件のもとで上陸拒否期間の短縮決定を受けられることがあります。この場合、過去に退去強制歴や出国命令歴がないことなどの要件を満たし、短縮決定を受けて自費出国したときは、短期滞在で上陸しようとする場合を除き、上陸拒否期間が5年から1年に短縮されることがあります。ただし、これは当然に再入国を保証するものではなく、将来日本に入国するには、在留資格認定証明書交付申請、査証、上陸審査などを別途クリアする必要があります。

出国命令制度の手続の流れ

出国命令制度は、退去強制手続よりも簡易な手続で出国する制度ですが、本人が自由に空港へ行ってそのまま出国すればよいというものではありません。

まず、出国命令制度の適用を希望する場合には、原則として地方出入国在留管理局または一定の支局に出頭する必要があります。出入国在留管理庁のQ&Aでは、出頭者に対する違反調査は、原則として8か所の地方出入国在留管理局と3か所の地方出入国在留管理局支局で行うとされています。

出頭する際には、旅券を持参します。旅券を紛失している場合には、身分を明らかにする証明書があれば持参します。帰国を希望する場合には、有効な旅券のほか、帰国のための航空券や航空券予約確認書が必要となることがあります。ただし、調査に時間を要し、事前に準備した航空券が使えなくなることもあるため、まずは出入国在留管理官署に出頭したうえで確認する必要があります。

出頭後は、本人の在留状況、違反内容、過去の退去強制歴や出国命令歴、犯罪歴、出国の確実性などが確認されます。要件を満たすと判断されれば、出国命令書が交付され、指定された期限までに日本から出国することになります。

出頭してから出国命令書の交付を受けて出国するまでの期間は、本人の状況や旅券の有無などによって異なりますが、出入国在留管理庁のQ&Aでは、おおむね2週間程度を要するとされています。

出国命令制度を利用できないケース

出国命令制度は、不法残留者に自発的な出国を促すための制度ですが、対象は限定されています。

例えば、偽造旅券を使って日本に入国した場合は、不法入国に当たるため、出国命令制度の対象にはなりません。この場合は、不法入国容疑により退去強制手続が進められることになります。

また、過去に出国命令を受けて出国したことがある人や、過去に退去強制されたことがある人も、再度出国命令制度を利用することはできません。

したがって、「オーバーステイだから出国命令で帰れる」と単純に考えるのは危険です。本人の入国経緯、在留状況、過去の履歴、刑罰歴、出国意思、旅券の有無などを確認したうえで、対象となるかを判断する必要があります。

在留を希望する場合と、帰国を希望する場合で対応は変わる

退去強制や出国命令の問題では、本人が何を希望しているのかが非常に重要です。

速やかに帰国する意思があり、要件を満たす場合には、出国命令制度の利用を検討することになります。この場合の目的は、日本に残ることではなく、収容を避けながら、比較的簡易な手続で出国し、将来の再入国可能性を残すことにあります。

一方、日本に配偶者や子どもがいる、長年日本で生活している、病気や人道上の事情があるなど、日本での在留継続を希望する場合には、出国命令制度ではなく、退去強制手続の中で在留特別許可を求める方向を検討することがあります。

ただし、在留特別許可は例外的な制度です。希望すれば当然に認められるものではなく、個々の事案ごとに、積極事情と消極事情を総合的に考慮して判断されます。

実務上の注意点

退去強制や出国命令に関わる場面では、まず冷静に事実関係を整理することが重要です。

在留期限を過ぎているのか、在留資格の活動範囲を超えていないか、過去に退去強制歴があるか、刑罰歴があるか、家族関係や生活実態にどのような事情があるかを確認しなければなりません。

また、出頭しただけで適法な在留状態に戻るわけではありません。出頭後も、法務大臣から特別に在留が認められない限り、入管法違反の状態にあることに変わりはありません。原則として就労も認められません。

不安だからといって、虚偽の説明をしたり、偽造書類を使ったり、事実を隠したりすることは絶対に避けるべきです。退去強制や出国命令の場面では、本人の誠実な対応、事実に基づく説明、資料の整合性が非常に重要になります。

行政書士など専門家に相談すべき場面

退去強制や出国命令は、通常の在留期間更新や在留資格変更よりも、本人の生活や将来に与える影響が大きい手続です。

特に、次のような場合には、早めに専門家へ相談することをおすすめします。

・在留期限を過ぎてしまっている
・入管から出頭を求められている
・警察や入管に摘発された
・日本人配偶者や子どもがいて、日本での在留を希望している
・過去に退去強制歴や出国命令歴がある
・刑罰歴がある
・出国命令制度を使えるか分からない
・在留特別許可を求めるべきか判断できない

行政書士は、在留資格や入管手続に関する書類作成、事実関係の整理、出頭前の準備、在留特別許可に関する資料整理などで支援できる場合があります。

ただし、収容、刑事事件、訴訟、身体拘束を伴う争いなどが関係する場合には、弁護士の関与が必要になることもあります。行政書士と弁護士の役割を適切に分けながら、本人にとって最も適切な対応を検討することが大切です。

まとめ

退去強制と出国命令制度は、どちらも入管法上の違反状態にある外国人の出国に関わる制度ですが、内容は大きく異なります。

退去強制は、入管法第24条の退去強制事由に該当する外国人を、法律上の手続に従って国外へ退去させる制度です。違反調査、違反審査、口頭審理、異議申出、法務大臣の裁決、退去強制令書の発付という段階を経て進みます。

一方、出国命令制度は、一定の要件を満たす不法残留者について、収容をしないまま、簡易な手続により出国を促す制度です。要件を満たせば、退去強制よりも上陸拒否期間が短くなるなど、将来の再入国可能性の面で重要な違いがあります。

ただし、出国命令制度は、すべての不法滞在者に使える制度ではありません。不法残留以外の違反がある場合、過去に退去強制歴や出国命令歴がある場合、一定の刑罰歴がある場合などは、対象外となることがあります。

また、日本での在留継続を希望する場合には、出国命令制度ではなく、退去強制手続の中で在留特別許可を求める方向を検討することになります。ただし、在留特別許可は例外的な措置であり、必ず認められるものではありません。

退去強制や出国命令に関わる問題は、本人の将来に大きく影響します。自己判断で動くのではなく、事実関係を整理し、制度の違いを理解したうえで、必要に応じて専門家に相談することが重要です。