Ⅱ-16.DV・家庭内トラブルがある場合の在留資格上の注意点

日本人や永住者などと結婚して日本で生活している外国人の方から、DVや家庭内トラブルに関する相談を受けることがあります。

たとえば、次のようなケースです。

・配偶者から暴力を受けている
・家を追い出された
・生活費を渡してもらえない
・在留カードやパスポートを取り上げられている
・「離婚したら日本にいられなくなる」と脅されている
・配偶者が在留資格の更新に協力してくれない
・子どもを連れて避難している
・離婚したいが、在留資格が不安で動けない

このような場合、まず最優先すべきなのは安全の確保です。

在留資格の問題は重要ですが、暴力や支配から逃れる必要がある場合には、警察、配偶者暴力相談支援センター、自治体、弁護士、支援団体などに早急に相談する必要があります。

そのうえで、現在の在留資格、婚姻状況、子どもの有無、別居や離婚の状況に応じて、在留資格上どのような対応が必要かを整理します。

この記事では、DV・家庭内トラブルがある場合の在留資格上の注意点を解説します。

なお、一般には「配偶者ビザ」と呼ばれることがありますが、この記事では、正確な制度上の用語として、主に在留資格「日本人の配偶者等」「永住者の配偶者等」「定住者」などと表記します。

1.DVとは何か

DVとは、配偶者や恋人など親密な関係にある、又はあった相手から振るわれる暴力を指す言葉として使われることが多いものです。

DVは、身体的な暴力だけに限られません。

内閣府男女共同参画局は、ドメスティック・バイオレンスについて、日本では「配偶者や恋人など親密な関係にある、又はあった者から振るわれる暴力」という意味で使用されることが多いと説明しています。
(出典:ドメスティック・バイオレンス(DV)とは、内閣府男女共同参画局ウェブサイトより)

DVには、次のようなものが含まれます。

・殴る、蹴る、物を投げるなどの身体的暴力
・暴言、脅迫、無視、人格否定などの精神的暴力
・生活費を渡さない、働かせないなどの経済的暴力
・性的行為を強要するなどの性的暴力
・交友関係や外出を制限する社会的暴力
・在留資格や帰国を材料に脅す行為
・在留カード、パスポート、通帳、携帯電話を取り上げる行為

外国人配偶者の場合、在留資格への不安を利用して支配されることがあります。

「離婚したら強制送還される」「更新に協力しない」「入管に通報する」などと言われ、逃げられないと思い込んでしまうケースもあります。

しかし、DVや家庭内トラブルがある場合には、在留資格上も個別の事情を整理して対応を検討することができます。

2.安全確保を最優先にする

DVがある場合、まず考えるべきことは、在留資格の更新よりも安全確保です。

暴力を受けている、命の危険を感じる、子どもに危害が及ぶおそれがある場合には、警察、配偶者暴力相談支援センター、自治体の相談窓口などに相談します。

内閣府男女共同参画局は、配偶者からの暴力に悩んでいる場合に、全国共通番号「#8008」から近くの相談窓口につながるDV相談ナビを案内しています。
(出典:DV相談ナビについて、内閣府男女共同参画局ウェブサイトより)

行政書士は在留資格手続の相談や書類作成を行うことができますが、保護命令、離婚、親権、刑事事件、損害賠償、避難先の確保などは、弁護士、警察、行政機関、支援団体との連携が必要になることがあります。

在留資格のことが心配でも、暴力のある場所にとどまり続ける必要はありません。

3.配偶者と別居したら直ちに不法滞在になるわけではない

DVや家庭内トラブルで配偶者と別居した場合、「もう日本にいられないのではないか」と不安になる方がいます。

しかし、別居しただけで直ちに不法滞在になるわけではありません。

在留カードに記載された在留期間が残っている限り、その期間中の在留資格自体が直ちに消えるわけではありません。

ただし、在留資格「日本人の配偶者等」や「永住者の配偶者等」は、配偶者としての身分関係に基づく在留資格です。

夫婦関係が実質的に破綻している場合や、離婚した場合には、今後の在留資格をどうするかを早めに検討する必要があります。

在留資格「日本人の配偶者等」は、日本人の配偶者、日本人の特別養子又は日本人の子として出生した人を対象とする在留資格です。
(出典:在留資格「日本人の配偶者等」、出入国在留管理庁ウェブサイトより)

別居には、正当な理由がある場合があります。

DVから避難するための別居は、単なる夫婦不仲による別居とは異なります。

その事情を資料で説明できるようにしておくことが大切です。

4.離婚・死別した場合は届出義務がある

DVや家庭内トラブルの結果、離婚することもあります。

離婚した場合には、配偶者に関する届出が必要になります。

出入国在留管理庁は、「日本人の配偶者等」又は「永住者の配偶者等」など、配偶者としての身分を有する中長期在留者が、配偶者と離婚又は死別した場合、その事由が生じた日から14日以内に届け出る必要があると案内しています。
(出典:配偶者に関する届出、出入国在留管理庁ウェブサイトより)

別居だけでこの届出が必要になるわけではありません。

しかし、離婚が成立した場合や、配偶者が亡くなった場合には、届出が必要です。

また、離婚後も「日本人の配偶者等」や「永住者の配偶者等」のままで在留し続けることはできません。

状況に応じて、在留資格変更を検討する必要があります。

5.6か月以上、配偶者としての活動をしていない場合

「日本人の配偶者等」や「永住者の配偶者等」の在留資格を持つ人が、配偶者としての活動を継続して6か月以上行っていない場合、正当な理由がある場合を除き、在留資格取消しの対象となることがあります。

ただし、DVから避難している場合など、配偶者としての活動を行っていないことについて正当な理由がある場合も考えられます。

出入国在留管理庁の在留資格取消しに関する案内では、在留資格取消しを行わない具体例として、配偶者としての活動を行わないことに正当な理由がある場合が示されています。
(出典:在留資格の取消し、出入国在留管理庁ウェブサイトより)

DV被害がある場合には、単に「別居している」という事実だけでなく、なぜ別居しているのか、安全確保のためであること、相談機関に相談していることなどを説明できるようにしておくことが重要です。

6.DVがある場合に残しておきたい資料

DVや家庭内トラブルがある場合、在留資格手続でも、事実関係を説明する資料が重要になります。

可能な範囲で、次のような資料を保管しておくことが考えられます。

・警察への相談記録
・配偶者暴力相談支援センターへの相談記録
・自治体相談窓口への相談記録
・医師の診断書
・けがの写真
・暴言や脅迫のメッセージ
・録音、メール、SNS記録
・避難先やシェルターに関する資料
・弁護士への相談記録
・調停、保護命令、離婚手続に関する資料
・子どもを連れて避難している事情を示す資料

ただし、証拠を集めるために危険な状況に戻るべきではありません。

安全を最優先にし、無理のない範囲で資料を整理します。

7.更新申請で配偶者の協力が得られない場合

DVや家庭内トラブルでは、配偶者が在留期間更新に協力してくれないことがあります。

たとえば、次のようなケースです。

・身元保証書を書いてくれない
・戸籍謄本や住民票の取得に協力しない
・収入資料を渡してくれない
・質問書に協力しない
・「更新できないようにしてやる」と脅す

通常の「日本人の配偶者等」の更新では、日本人配偶者の戸籍謄本、住民票、身元保証書、滞在費用を証明する資料などが提出書類として案内されています。
(出典:在留資格「日本人の配偶者等」・外国人の方が日本人の配偶者である場合、出入国在留管理庁ウェブサイトより)

しかし、DV事案では、通常どおり配偶者の協力を得ることが難しい場合があります。

その場合、なぜ資料を提出できないのか、DVや別居の事情、今後の在留資格をどう考えるのかを整理して、早めに入管や専門家に相談する必要があります。

8.離婚後に検討する在留資格

DVや家庭内トラブルにより離婚した場合、離婚後の在留資格を検討する必要があります。

考えられる選択肢は、個別事情によって異なります。

たとえば、次のようなものです。

・定住者
・就労系在留資格
・留学
・日本人の子どもを養育する場合の定住者
・永住者である場合は永住者のまま
・その他、個別事情に応じた在留資格

日本人配偶者と離婚しても、日本人との子どもを日本で養育している場合には、定住者への変更を検討することがあります。

また、本人に就労資格に該当する学歴、職歴、雇用先がある場合には、就労系在留資格への変更を検討することもあります。

在留資格変更許可申請は、既にほかの在留資格で日本に在留している人が、在留目的に変更があった場合に行う申請です。
(出典:在留資格変更許可申請、出入国在留管理庁ウェブサイトより)

離婚後は、在留期限が残っていても、早めに次の在留資格を検討する必要があります。

9.子どもがいる場合

DVや家庭内トラブルの中で、子どもを連れて避難するケースがあります。

子どもが日本人である場合、外国人親がその子どもを日本で養育するために、在留資格「定住者」への変更を検討することがあります。

日本人の実子を扶養する外国人親の取扱いについて、出入国在留管理庁の資料では、諸般の事情を考慮して「定住者」と認めることが相当と判断される場合があることが説明されています。
(出典:資料編、出入国在留管理庁ウェブサイトより)

この場合、重要なのは、外国人親が子どもを現に監護・養育していることです。

確認される資料としては、次のようなものがあります。

・子どもの戸籍謄本
・住民票
・親権者を示す資料
・保育園、学校の資料
・母子健康手帳
・通院記録
・生活費の資料
・避難や別居の事情を示す資料
・DV相談記録
・調停、保護命令、離婚手続の資料

子どもの安全と生活を守ることを前提に、在留資格の方針を整理する必要があります。

10.FRESCなど相談窓口を利用する

DVや家庭内トラブルがある場合、入管手続だけでなく、法律、生活、就労、子育てなど複数の問題が絡みます。

外国人在留支援センター、いわゆるFRESCでは、外国人の在留に関する相談対応などを行っています。

出入国在留管理庁は、FRESCについて、日本で暮らし、活躍する外国人の在留を支援する政府の窓口が集まり、外国人からの相談対応などを行う施設と説明しています。
(出典:外国人在留支援センター、出入国在留管理庁ウェブサイトより)

また、FRESCにおける相談対応・連携事例では、DV被害者について、離婚後の在留申請手続や入管手続上配慮されることを説明した例が紹介されています。
(出典:FRESCにおける相談対応・連携事例、出入国在留管理庁ウェブサイトより)

一人で判断せず、複数の相談先を利用することが重要です。

11.行政書士に相談する場合に準備したい資料

DVや家庭内トラブルがある場合に、在留資格について行政書士へ相談する際は、可能な範囲で次の資料を準備するとよいでしょう。

・在留カード
・パスポート
・現在の在留資格と在留期限が分かる資料
・日本人又は永住者配偶者との婚姻関係が分かる資料
・戸籍謄本
・住民票
・離婚届受理証明書
・調停や裁判の資料
・DV相談記録
・警察相談記録
・診断書
・子どもの戸籍、住民票、学校資料
・収入資料
・住居資料
・別居の理由を説明できる資料

ただし、資料をそろえるために危険な場所へ戻る必要はありません。

安全を確保したうえで、取得可能な資料から整理します。

12.注意すべきこと

DVや家庭内トラブルがある場合、次の点に注意してください。

配偶者の言うことをそのまま信じない

「離婚したら強制送還される」「更新できない」「入管に言えばすぐ帰国させられる」と言われても、それが正しいとは限りません。

在留資格の判断は、個別事情に基づき入管が行います。

離婚届に安易に署名しない

離婚届に署名する前に、親権、養育費、在留資格、住居、生活費を整理する必要があります。

必要に応じて弁護士に相談します。

在留期限を放置しない

DV対応に追われていても、在留期限は重要です。

期限が迫っている場合は、早めに相談し、更新又は変更の方針を決める必要があります。

虚偽の説明をしない

DVがある場合でも、申請では事実関係を正確に説明する必要があります。

過去の別居、離婚協議、子どもの養育状況などを隠すと、申請全体の信用性が下がる可能性があります。

13.まとめ

DV・家庭内トラブルがある場合、まず最優先すべきなのは安全の確保です。

在留資格の不安から、暴力や支配を受け続ける必要はありません。

配偶者から暴力を受けている場合、在留カードやパスポートを取り上げられている場合、在留資格を理由に脅されている場合には、警察、配偶者暴力相談支援センター、自治体、弁護士、支援団体などに相談することが重要です。

在留資格上は、次の点を整理します。

・現在の在留資格と在留期限
・別居の理由
・離婚の有無
・配偶者に関する届出の要否
・在留資格取消しとの関係
・更新申請ができるか
・定住者など他の在留資格へ変更できるか
・日本人の子どもを養育しているか
・DVや家庭内トラブルを示す資料があるか

DVがある場合、通常の配偶者申請・更新とは異なる配慮が必要になることがあります。

大切なのは、一人で抱え込まないことです。

安全を確保したうえで、在留資格、離婚、親権、生活費、住居、子どもの生活について、早めに専門機関へ相談し、今後の方針を整理することが大切です。

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参考資料・出典

ドメスティック・バイオレンス(DV)とは 内閣府男女共同参画局ウェブサイトより
DV相談ナビについて 内閣府男女共同参画局ウェブサイトより
在留資格「日本人の配偶者等」 出入国在留管理庁ウェブサイトより
在留資格「日本人の配偶者等」・外国人の方が日本人の配偶者である場合 出入国在留管理庁ウェブサイトより
配偶者に関する届出 出入国在留管理庁ウェブサイトより
在留資格の取消し 出入国在留管理庁ウェブサイトより
在留資格変更許可申請 出入国在留管理庁ウェブサイトより
外国人在留支援センター 出入国在留管理庁ウェブサイトより
FRESCにおける相談対応・連携事例 出入国在留管理庁ウェブサイトより
資料編 出入国在留管理庁ウェブサイトより
出入国管理及び難民認定法 e-Gov法令検索より